言語的解釈 ─ 3.1節の言語的コペンハーゲン解釈(E$_4$) ─ の 「測定は一回だけ」 から, 「状態は一つだけ」と 「観測量は一つだけ」 が要請された.「状態は一つだけ」ならば, \begin{align} \mbox{ 状態は変化しない. } \tag{11.1} \end{align}
なぜならば、

$(a):$ 状態の動きを見るためには、 二回以上の測定をしなければならないわけで、しかも これは禁忌だからである。

というのが、一応の理由づけであるが、本当は理由など無くて、

  • 結果オーライ

と思えばよい。 これが測定理論の正式な方法(ハイゼンベルグ描像)である.

本書では、「状態は変化しない」の嚆矢を
  • パルメニデスの「運動は存在しない」
と考えたい。 量子力学も哲学も統計学も知らなくても、 量子言語の上級者になることができる。 量子言語を哲学と関連付けることが不可欠というわけではないが、 やはり、 右図は捨てがたい。


定理 11.1 [因果作用素と観測量] 一般の基本構造 \begin{align*} [ {\mathcal A}_k \subseteq \overline{\mathcal A}_k \subseteq {B(H_k)}] \qquad (k=1,2) \end{align*} を考える. $\Phi_{1,2}:\overline{\mathcal A}_2 \to \overline{\mathcal A}_1$を因果作用素とする. このとき, ${\overline{\mathcal A}_2}$内の任意の観測量 $ {\mathsf O}_2$ $=$ $(X , {\cal F} , F_2{})$ に対して, {{}}$(X , {\cal F} , \Phi_{1,2} F_2{})$ は${\overline{\mathcal A}_1}$内の観測量 である.これを$\Phi_{1,2} {\mathsf O}_2$ $=$ $(X , {\cal F} , \Phi_{1,2} F_2{})$ と記す.

証明$\;\;$ $\Xi$ $(\in {\cal F} ) $ の 可算分割 $\{\Xi_1, \Xi_2, \ldots, \Xi_n, \ldots\}$ $\Big($ すなわち, $\Xi = \bigcup\limits_{n=1}^\infty \Xi_n $, $\Xi_n \in {\cal F}, (n = 1, 2, \ldots)$, $\Xi_m \cap \Xi_n =\emptyset \;\; (m \not= n )$ $\Big)$ を考える. 因果作用素の定義10.4に注意して, 任意の$\rho_1 (\in {{\mathcal A}_1}^*)$ に対して, \begin{align*} & {}_{\stackrel{{}}{(\overline{\mathcal A}_1)_* }}\Big(\rho_1, \Phi_{1,2} F_2( \bigcup\limits_{n=1}^\infty \Xi_n {}) \Big){}_{\stackrel{{}}{\overline{\mathcal A}_1 }} = {}_{\stackrel{{}}{(\overline{\mathcal A}_1)_* }}\Big( {\Phi}^*_{1,2} \rho_1, F_2 ( \bigcup\limits_{n=1}^\infty \Xi_n {}) \Big){}_{\stackrel{{}}{\overline{\mathcal A}_2 }} \\ = & \sum\limits_{n=1}^\infty {}_{\stackrel{{}}{(\overline{\mathcal A}_1)_* }}\Big( {\Phi}^*_{1,2} \rho_1, F_2 ( \Xi_n {}) \Big){}_{\stackrel{{}}{\overline{\mathcal A}_2 }} = \sum\limits_{n=1}^\infty {}_{\stackrel{{}}{(\overline{\mathcal A}_1)_* }}\Big( \rho_1, {\Phi}_{1,2} F_2 ( \Xi_n {}) \Big){}_{\stackrel{{}}{\overline{\mathcal A}_2 }} \end{align*} よって,$\Phi_{1,2} {\mathsf O}_2$ $=$ $(X , {\cal F} , \Phi_{1,2} F_2{})$ が, $C(\Omega_1)$内の観測量であることが 証明された.
$\square \quad$


簡単な例から始める. $T=\{0,1\}$ として, 一般の基本構造 \begin{align*} [ {\mathcal A}_t \subseteq \overline{\mathcal A}_t \subseteq {B(H_t)}] \qquad (t=0,1) \end{align*} と 因果作用素 $\Phi_{0,1}: \overline{\mathcal A}_1 \to \overline{\mathcal A}_0$ を考える. すなわち, \begin{align} \overline{\mathcal A}_0 \xleftarrow[]{\Phi_{0,1}} \overline{\mathcal A}_1 \tag{11.2} \end{align} したがって,前双対作用素$(\Phi_{0,1})_*$ と 双対作用素$\Phi_{0,1}^* $: \begin{align} (\overline{\mathcal A}_0)_* \xrightarrow[(\Phi_{0,1})_*]{} (\overline{\mathcal A}_1)_* \qquad \qquad {\mathcal A}_0^* \xrightarrow[\Phi_{0,1}^*]{} {\mathcal A}_1^* \tag{11.3} \end{align} を考える. もし$\Phi_{0,1}: \overline{\mathcal A}_1 \to \overline{\mathcal A}_0$ が決定的ならば, 次を得る。 \begin{align} {\mathcal A}_0^* \supset {\frak S}^p{({\mathcal A}_0^*)} \ni \rho \xrightarrow[\Phi_{0,1}^*]{} \Phi_{0,1}^* \rho \in {\frak S}^p{({\mathcal A}_1^*)} \subset {\mathcal A}_1^* \tag{11.4} \end{align}
上の準備の下に,「ハイゼンベルグ描像とシュレーディンガー描像」を説明しよう.

次を仮定しよう。
$(A_1):$ 決定的因果作用素 $\Phi_{0,1}: \overline{\mathcal A}_1 \to \overline{\mathcal A}_0$ を想定する。
$(A_2):$ 状態$\rho_{{}0}$ $ \in {\frak S}^p({\mathcal A}_{{}0}^*):\;\; \mbox{純粋状態} $ を固定する。
$(A_3):$ $\overline{\mathcal A}_1$内の 観測量 ${\mathsf O}_1=(X_1, {\mathcal F}_1, F_1)$ を固定する。
このとき、次を考える。
説明11.2 [ハイゼンベルグ描像] ハイゼンベルグ描像とは、 次の(a)のことである。
$(a1):$ $\overline{\mathcal A}_1$内の 観測量 ${\mathsf O}_1$ を $\overline{\mathcal A}_0$ 内の観測量 $\Phi_{0,1}{\mathsf O}_1$ と同一視する。 すなわち \begin{align*} \underset{\mbox{ ( in $\overline{\mathcal A}_0$)}}{\Phi_{0,1}\overline{\mathsf O}_1} \qquad \xleftarrow[\mbox{ 同一視}]{\Phi_{0,1}} \qquad \underset{\mbox{ ( in $\overline{\mathcal A}_1$)}}{{\mathsf O}_1} \end{align*}
したがって,
$(a2):$ (時刻$t=0$における) 状態 $\rho_{{}0}$ $ \in {\frak S}^p({\mathcal A}_{{}0}^*)$ を持つシステムに対する (時刻$t=1$における) 観測量 ${\mathsf O}_1$ の測定は \begin{align*} {\mathsf M_{\overline{\mathcal A}_0}(\Phi_{0,1}{\mathsf O}_1}, S_{[\rho_0]}) \end{align*} と表現できる。
したがって, 言語ルール1( 測定:$\S$2.7) によって、
$(a3):$ 測定値が$\Xi( \in {\mathcal F})$ に属する確率は次で与えられる \begin{align} {}_{{\mathcal A}_0^* } \Big(\rho_0, \Phi_{0,1}(F_1( \Xi )) \Big) {}_{\overline{\mathcal A}_0} \tag{11.5} \end{align}


説明11.3 [シュレーディンガー描像] シュレーディンガー描像とは、 次の(b)のことである。
$(b1):$ 純粋状態 $\Phi_{0,1}^* \rho_0 (\in {\frak S}^p({\mathcal A}_1^*))$ を $\rho_0 (\in {\frak S}^p({\mathcal A}_0^*))$と見なすこと, すなわち, \begin{align} {\mathcal A}_0^* \supset {\frak S}^p{({\mathcal A}_0^*)} \ni \rho_0 \xrightarrow[\mbox{ 同一視}]{\Phi_{0,1}^*} \Phi_{0,1}^* \rho_0 \in {\frak S}^p{({\mathcal A}_1^*)} \subset {\mathcal A}_1^* \nonumber \end{align}
したがって,
$(b2):$ (時刻$t=1$における) 純粋状態$\Phi_{0,1}^*\rho_{{}0}$ $ \in {\frak S}^p({\mathcal A}_{{}1}^*)$ に対する (時刻$t=1$における) 観測量 ${\mathsf O}_1$ の測定は次のように表現できる: \begin{align*} {\mathsf M_{\overline{\mathcal A}_1}({\mathsf O}_1}, S_{[\Phi_{0,1}^* \rho_0]}) \end{align*}
よって, 言語ルール1( 測定:$\S$2.7) によって、
$(b3):$ 測定値が$\Xi( \in {\mathcal F})$ に属する確率は次で与えられる \begin{align} {}_{{\mathcal A}_1^* } \Big(\Phi_{0,1}^*\rho_0, F_1( \Xi ) \Big) {}_{\overline{\mathcal A}_1} \tag{11.6} \end{align}



これは次に等しい: \begin{align} {}_{{\mathcal A}_0^* } \Big(\rho_0, \Phi_{0,1}(F_1( \Xi )) \Big) {}_{\overline{\mathcal A}_0} \tag{11.7} \end{align}

この意味で、 (すなわち、 (11.6) and (11.7) ), 仮定(A$_1$)の下に, \begin{align*} \mbox{ ハイゼンベルグ描像と シュレーディンガー描像 は同値である} \end{align*} すなわち, \begin{align} \underset{\mbox{ (ハイゼンベルグ描像)}}{ \fbox{${\mathsf M_{\overline{\mathcal A}_0}(\Phi_{0,1}{\mathsf O}_1}, S_{[\rho_0]})$} } \quad \underset{\mbox{ (同一視)}}{\longleftrightarrow} \quad \underset{\mbox{ (シュレーディンガー描像)}}{ \fbox{ ${\mathsf M_{\overline{\mathcal A}_1}({\mathsf O}_1}, S_{[\Phi_{0,1}^* \rho_0]}) $ } } \tag{11.8} \end{align} となる。

注意11.4 上の議論で、条件(A$_1$)-- 決定的因果作用素 $\Phi_{0,1}: \overline{\mathcal A}_1 \to \overline{\mathcal A}_0$ -- は不可欠である。 そうでないと、 $ \Phi_{0,1}^* \rho_0 $ が必ずしも純粋状態ではなくなって、 シュレーデンガー描像が定義できなくなってしまう。 他方、ハイゼンベルグ描像はこの場合でも定義できる。 したがって、

$\bullet$ $\begin{cases} \mbox{ ハイゼンベルグ描像は正式 } \\ \\ \mbox{ シュレーデンガー描像 は場合の手法 } \end{cases} $
と言える。
$\square \quad$