1.0.: ファインマン博士の問い掛けに答える

さて,リチャード, P. ファインマン博士(量子電磁気学の創立者の一人)の二つの思慮深い言葉($\sharp_1$)と($\sharp_2$)から始めよう

$(\sharp_1):$
相対性理論を理解しているのは世界で12人だけだと新聞が書いてあったことがあった. そういうときがあったかもしれないが,今はその数は12人より格段に多い. しかし,量子力学に関しては,未だに誰も理解していないと言って間違いない.
$(\sharp_2):$
われわれは量子力学が表現する世界像を理解するのに非常に大きな困難を感じている. ・・・ 私は本当の問題をはっきりと規定することができない. したがって,私は本当の問題は存在しないのではないかと疑うが, 本当の問題が存在しないという確信はない.

(偉い人は様々な場面で様々な言葉を発しているわけで、当然のことであるが、偉い人の言葉を切り取る場合は、都合のいい言葉を切り取ることになる。 しかし、上の$(\sharp_1)$と$(\sharp_2)$は著者が切り取った言葉というわけではなくて、Mermin博士が名著「Boojums the way through」の中で切り取った言葉である.)

もしファインマン博士と議論できる僥倖に恵まれることがあったとして, しかも、ファインマン博士に何かを答えることを促されたならば, 著者は次のように答えるだろう.
$(\flat):$
量子力学には,本当の問題は存在しないと確信できる. したがって,理解すべき問題がないのだから, 誰も理解していないのもうなずける. 我々のできることは、
  • "黙って、計算することだけ"
である。

著者は,この答え($\flat$)を説明するために本書を著した.亡きファインマン博士への回答とするならば, ぐだぐだとした長々しい説明では読んでもらえないないだろう. ファインマンの言葉 ($\sharp_1$)と($\sharp_2$)の深さを鑑みるならば,

  • 主張($\flat$)「本当の問題は存在しない」からスタートすれば, 「量子力学」の適用範囲が倍増される
さらに、
  • 量子言語と呼ばれる形而上学が,実は科学の中心に位置する
すなわち,
  • 科学をする$\doteqdot$現象を量子言語で記述する
である。
ファインマン博士は、「形而上学」という言葉を好きでなかったのかもしれないが、

  • $(\sharp_2)$を言い換えれば、「形而上学」なのだから、

ファインマン博士が
  • 「量子力学の基礎は形而上学である」
と言ってくれていたら、スッキリしていたと思う。

上記のようなことを言ってしまうならば、そもそも、フォン・ノイマンが1932年に「量子力学の数学的基礎」でそう断言してくれていたならば、 「初めからスッキリ」していた。 事実、アインシュタインとフォン・ノイマンは両極の天才で、 アインシュタインの仕事はすべて物理学なのに、フォン・ノイマンの仕事はすべて物理学ではないのだから。 先走りして言ってしまうならば、物理学ならば微分幾何学($\approx$微積分)という数学で記述さるはずで、ヒルベルト空間($\approx$線形代数) で記述されるはずのないものだからである。


この講義では、これを説明する。
量子力学の多少の知識を持っている読者ならば、この講義を聞く前に、次の文献を先に読むことを勧める:
[1]:S. Ishikawa, “A New Interpretation of quantum mechanics,Journal of Quantum Information Science,” Vol. 1 No. 2, 2011, pp. 35-42. doi: 10.4236/jqis.2011.12005 ( download free)
[2]: S. Ishikawa, “Quantum mechanics and the Philosophy of Language: Reconsideration of Traditional Philosophies," Journal of quantum information science, Vol. 2, No. 1, 2012, pp.2-9.doi: 10.4236/jqis.2012.21002 ( download free)
[3]:S. Ishikawa, The linguistic nterpretation of quantum mechanics; quantum mechanics,”arXiv:1204.3892v1[physics.hist-ph], (2012) ( download free)



サプリ
「量子言語」という名前は、誤解を招きやすいかもしれない。 本書全編に書くことは、

  • 高尚で偉そうな「言語学」ではなくて、軽い感じの「語学」

である。 量子言語の会話の上級者になってもらいたい。
分類的には、量子言語は科学哲学の一分野かもしれないが、 ファインマンの言葉:
  • 科学者にとって科学哲学の無益さときたら、鳥たちにとっての鳥類学と大差ない。
    (Philosophy of science is about as useful to scientists as ornithology is to birds)
が間違っていたことを読者は理解するだろう。


新しい学問に分野など議論しても誤解を招くだけで、上では余計な事を書きすぎたかもしれない。 量子言語が、物理でも科学でも哲学でも宗教でもどれでも構わない。 量子言語が一言だけ発言できるならば、、
  • 「役に立つんだから、ドンドン使ってください」
だけだろう。 本書を読んで、この部分だけ納得いただけば本書を著した労が報われると言うもんだ。