(時刻$t_1$での)粒子$A$の位置$q_A$と
(時刻$t_1$での)粒子$B$の速度$v_B$
を正確に測定できる。
ヒルベルト空間$H_1= L^2 ({\mathbb R}_{q})$を考えて,
量子系の2粒子システム$S$をテンソルヒルベルト空間
$H =H_1 \otimes H_1 = L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})})$
内で議論する.
2粒子システム$S$の
エンタングル状態
を
${u_0}$
$({}\in H =H_1 \otimes H_1 = L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})}))$
$\Big($正確には,
$\rho_0=| {u_0} \rangle \langle {u_0} | \Big)$
とする. ここで,
ここで,$a \in {\mathbb R}$, 正数$\epsilon$は十分小さいとする.
各$k=1,2$に対して,
$Q_k{}\! : L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})}) \to $
$L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})}) $
と
$P_k \!: L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})}) \to $
$L^2 ({\mathbb R}^2_{(q_1 , q_2{})})$
を次の(非有界)自己共役作用素とする.
ある時刻$t_0$において,次の議論を考える.
EPRの論文
はかなり一般的な設定で
書かれていて,
この
「三段論法の不成立」や「光より速い何かがあるのか?(非局所性の問題)」以外の問題意識
(たとえば,
「実在とは何か?」等)が主となっていて,
いろいろな観点から読める論文であるが,
本書
---言語的科学観 ---では,「実在とは何か?」には関わらない.
「三段論法の不成立」は,意外なことであるが,あってはならないことではない.
一方、
「超光速(非局所性)」は非常に困るわけで,これはあってはならないことで,「真のパラドックス」であるが,これは量子力学が発見された当初から問題視されたことで(たとえば,ド・ブロイのパラドックス(cf.2.10節)),EPR論文で最初に指摘されたことではない. もちろん、 これは右図のDで解決されるべきことである。
EPRの論文
(in $\S$4.4):
はいろいろな読み方のできる論文で、
「よく整理された論文」とは思えないが、
「示唆に富む論文」であることは確かと思う。
以下は、著者なりの一つの読み方である。
$\bullet$
Einstein, A., Podolosky, B. and Rosen, N.:
"Can quantum-mechanical description of reality
be considered completely?"
Physical Review Ser 2(47),
777--780,
(1935)
注意8.15 [ 量子系では、三段論法は成り立たない]
元々の
EPRの論文
(in $\S$4.4)
は以下のような
設定になっている.
質量$m$の同一の2つの
粒子$A_1$と$A_2$が合わさって静止しているとして,
これが2つに弾けて正反対に飛び出すことを考える.
(4.3.3節で述べたように、この命題(A)が正しかったとしても,
(近似同時測定に関わる定理である)
ハイゼンベルグの不確定性原理(=定理4.15)と矛盾するわけではない).
$(A):$
運動量保存則から、
(時刻$t_1$での)粒子$A$の位置$q_A$と運動量$- m v_B$
がわかるか
?
さて、
を以下に考える。
$(\sharp_1):$
(粒子$A_1$の位置,
粒子$A_2$の運動量)
と
粒子$A_2$の運動量
を正確に測定して,
$(x_1, p_2)$と$p'_2$
が得られたとする.
もちろん,
$p_2=p'_2$であるから,
例2.28[スペクトル分解]を見習って,
\begin{align*}
\mbox{自己共役作用素}(Q_1 \otimes P_2 ) \times (I \otimes P_2 )\mbox{
の観測量表示を}
{\mathsf O}_1=({\mathbb R}^3, {\mathcal B}_{{\mathbb R}^3},F_1)
\end{align*}
として,
\begin{align*}
\underset{\text{ (粒子$A_1$の位置,
粒子$A_2$の運動量)}}{(x_1, p_2)} \;\; \underset{{\mathsf M}_{B(H)}({\mathsf O}_1,S_{[\rho_0]})}{\Longrightarrow}
\;\;
\underset{\text{ 粒子$A_2$の運動量}}{p_2}
\end{align*}
となる.
$(\sharp_2):$
また,
粒子$A_1$の運動量と
粒子$A_2$の運動量
を正確に測定して,
$p_1$と$p_2$
が得られたとする.
ここで,
運動量保存則から,
$p_1=-p_2$
が成り立つから,
\begin{align*}
\mbox{自己共役作用素}(I \otimes P_2 ) \times (P_1 \otimes I )
\mbox{
の観測量表示を}
{\mathsf O}_2=({\mathbb R}^2, {\mathcal B}_{{\mathbb R}^2},F_2)
\end{align*}
として,
\begin{align*}
\underset{\text{ 粒子$A_2$の運動量}}{p_2}
\;\; \underset{{\mathsf M}_{B(H)}({\mathsf O}_2,S_{[\rho_0]})}{\Longrightarrow}\;\;
\underset{\text{ 粒子$A_1$の運動量}}{- p_2}
\end{align*}
となる.
というような「三段論法の議論」が成立しそうであるが,
$(\sharp_3):$
したがって,
$(\sharp_1)$
と
$(\sharp_2)$
により,
"三段論法"によって,
\begin{align*}
\qquad \quad
\underset{\text{ 粒子$A_1$の運動量}}{- p_2}
\qquad
\Big(
すなわち,
「\text{粒子$A_1$の運動量は,$-p_2$である}」
\Big)
\end{align*}
と結論できて,粒子$A_1$の位置$x_1$と
運動量$-p_2$を正確に知り得たことになる.
なぜならば,
$(\sharp_4):$
$
(Q_1 \otimes P_2 ) \times (I \otimes P_2 )
$と
$(I \otimes P_2 ) \times (P_1 \otimes I )$
(
したがって,
${\mathsf O}_1$
と
${\mathsf O}_2$
)
は非可換で,
同時観測量が存在しないからで,
そうならば,
からである
よって、
EPR論文は、
と主張しているとも読める。
$\qquad \qquad \qquad$ Fig.1.1: 世界記述の発展史
だけで、これ以上のことを主張しているとは思えない。
この不思議さを根底から打破するには、アインシュタイン級の天才が必要で、
そういう状況は滅多にあるわけではないので、常識的には、
として、エンタングル状態の応用を追究した方が賢いだろう。
「超光速(非局所性)」が、「超光速通信を実現しないという証明」があるらしいが、「不可能証明」
をチェックする能力は著者にはない。「瞬間移動の不可能証明」などいくらでもできそうだが、それが可能なのだから、
不可能証明は単純でない。
8.7: 量子系では、三段論法は成り立たない
This web-site is the html version of "Linguistic Copehagen interpretation of quantum mechanics; Quantum language [Ver. 4]" (by Shiro Ishikawa; [home page] )
PDF download : KSTS/RR-18/002 (Research Report in Dept. Math, Keio Univ. 2018, 464 pages)
注意8.16