問題9.14 [二つの封筒問題(問題5.16の再掲)]

ゲームの主催者は,あなたに二つの封筒 (i.e., 封筒Aと 封筒B)から一つの封筒を選ぶチャンスを提供した. 封筒Aと 封筒Bにそれぞれ $V_1$円と$V_2$円が入っている. あなたには,次が知らされている.
$(a):$ $\qquad \frac{V_1}{V_2}=1/2$ または, $\frac{V_1}{V_2}=2$

交換写像$\overline{x}: \{V_1, V_2 \} \to \{V_1, V_2\} $を $\overline{x} = \begin{cases} V_2,\;\; (\mbox{ if } x=V_1), \\ V_1 \;\; (\mbox{ if } x=V_2) \end{cases} $ で定める. あなたは無作為に(公正なコイン投げによって)一方の封筒を 選んだとしよう. そして, $x_1$円を得たとする. (すなわち, 封筒A[resp B]ならば, $V_1$円[resp. $V_2$円] 得たことになる). このとき, 主催者は,$\overline{x}_1$円得ることになる. したがって,あなたは 「$\overline{x}_1=x_1/2$」 または 「$\overline{x}_1=2x_1$」と推定できる. ここで,あなたには,あなたの$x_1$円と主催者の$\overline{x}_1$円と変更するという選択肢があるとしよう.$x_1=\alpha$としよう. さて,このままにして,$\alpha$円を獲得するか? または,変更して,$\alpha/2$円または$2\alpha$円を獲得するか? さて,あなたはどうする.



[(P1):どこがパラドックスなのか ?]. あなたは次のように考えるかもしれない. 確率1/2で, もう一方の封筒$B$は,$\alpha/2$円か,または$2\alpha$円入っているに違いない. したがって,封筒$B$内のお金の期待値(それをE($\alpha$)と記す)は, \begin{align} E(\alpha)=(1/2)(\alpha/2) + (1/2)(2\alpha) \tag{9.18} \end{align} で, すなわち,$E(\alpha)=1.25\alpha$となる.これは封筒$A$の$\alpha$円より大きい. したがって,「封筒$A$を封筒$B$に変更しよう」とあなたは考えるだろう.

  • しかし,これはおかしい. 
なぜならば, 封筒A と 封筒B の役割は同じはずだからである.あなたがランダムに(i.e., 確率1/2で)選んだのが, 封筒Bだとすると,こんどは封筒Aを選ぶのだろうか? このパラドクスが,有名な「二つの封筒問題(i.e., "The Other Person's envelope is Always Greener" )」である.




9.5.1:(P1): 二つの封筒問題のベイズ統計による解答




状態空間$\Omega$ を次のように定める。 \begin{align*} \Omega=\overline{\mathbb R}_+ (=\{ \omega \in {\mathbb R} \;|\; \omega \ge 0 \}) \end{align*} もちろん、ルベーグ測度$\nu$ を仮定する。 次の古典基本構造から始めよう: \begin{align*} [ C_0(\Omega ) \subseteq L^\infty ( \Omega , \nu ) \subseteq B(L^2 ( \Omega , \nu ) ) ] \end{align*} また、 $\widehat{\Omega}=\{ (\omega, 2 \omega ) \;| \; \omega \in \overline{\mathbb R}_+ \}$ と置いて、 次の同一視を考える: \begin{align} \Omega \ni \omega \underset{\mbox{(identification)}}{\longleftrightarrow} (\omega, 2 \omega ) \in \widehat{\Omega} \tag{9.19} \end{align} さらに, 写像 $V_1:\Omega (\equiv \overline{\mathbb R}_+) \to X(\equiv \overline{\mathbb R}_+)$ と $V_2:\Omega (\equiv \overline{\mathbb R}_+) \to X(\equiv \overline{\mathbb R}_+)$ を次のように定める: \begin{align*} V_1(\omega ) =\omega , \quad V_2(\omega ) = 2 \omega \qquad (\forall \omega \in \Omega) \end{align*} また、$L^\infty (\Omega, \nu )$内の観測量 ${\mathsf O}=(X(=\overline{\mathbb R}_+), {\mathcal F}(={\mathcal B}_{\overline{\mathbb R}_+}:\mbox{ the Borel field}), F )$ を次のように定める: \begin{align*} & \qquad [F(\Xi )](\omega )= \begin{cases} 1 \qquad & (\mbox{ if } \omega \in \Xi, \;\; 2 \omega \in \Xi) \\ 1/2 \qquad & (\mbox{ if } \omega \in \Xi, \;\; 2 \omega \notin \Xi) \\ 1/2 \qquad & (\mbox{ if } \omega \notin \Xi, \;\; 2 \omega \in \Xi) \\ 0 \qquad & (\mbox{ if } \omega \notin \Xi, \;\; 2 \omega \notin \Xi) \end{cases} \qquad (\forall \omega \in \Omega, \forall \Xi \in {\mathcal F} ) \end{align*}



同一視 : $\widehat{\Omega} \ni (\omega, 2\omega ) \longleftrightarrow \omega \in \Omega =\overline{\mathbb R}_+$の下に、 次を仮定する: \begin{align*} \rho_0(D) =\int_D w_0(\omega ) d \omega \quad (\forall D \in {\mathcal B}_{\Omega }={\mathcal B}_{\overline{\mathbb R}_+ }) \end{align*} ここに 確率密度関数 $w_0: \Omega ( \approx \overline{\mathbb R}_+ ) \to \overline{\mathbb R}_+ $ は連続とし、 混合状態$\rho_0 (\in {\mathcal M}^m(\Omega(=\overline{\mathbb R}_+ ) ) )$ は 確率密度関数$w_0 (= h)$を持つとする。 ここで, 混合型言語ルール${}^{\rm (m)}$1($\S$9.1) によって, 次が言える.

$(D_1):$ 混合測定 ${\mathsf M}_{L^\infty (\Omega, d \omega )} ({\mathsf O}=(X, {\mathcal F}, F ), S_{[\ast]}(\rho_0))$ によって得られた測定値が $\Xi (\in {\mathcal B}_X ={\mathcal B}_{\overline{\mathbb R}_+ })$ に属する 確率$P(\Xi)$ $(\Xi \in {\mathcal B}_X ={\mathcal B}_{\overline{\mathbb R}_+ })$ は次で与えられる. \begin{align} P (\Xi ) & = \int_\Omega [F(\Xi )](\omega ) \rho_0 (d \omega ) = \int_\Omega [F(\Xi )](\omega ) h (\omega ) d \omega \nonumber \\ & = \int_{\Xi} \frac{h(x/2 )}{4} + \frac{h(x )}{2} \;\; d x \quad (\forall \Xi \in {\mathcal B_{\overline{\mathbb R}_+ }}) \tag{9.20} \end{align}
したがって,測定値の期待値は \begin{align} \int_{\overline{\mathbb R}_+} x P(d x ) = \frac{1}{2} \int_{0}^\infty x \cdot \Big( h(x/2 )/2 + h(x ) \Big) d x = \frac{3}{2} \int_{\overline{\mathbb R}_+} x h(x ) d x \tag{9.21} \end{align} となる. また, ベイズの定理から,
$(D_2):$ 混合測定 ${\mathsf M}_{L^\infty (\Omega, d \omega )} ({\mathsf O}=(X, {\mathcal F}, F ),$ $ S_{[\ast]}(\rho_0))$によって, 測定値$\alpha (\in X(=\overline{\mathbb R}_+))$ を得たとき, 事後状態 $\rho_{\mbox{ post}}^\alpha (\in {\mathcal M}^m (\Omega ))$ は次で与えられる. \begin{align} \rho_{\mbox{ post}}^\alpha = \frac{ \frac{h(\alpha/2)}{2} } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } \delta_{(\frac{\alpha}{2}, \alpha)} + \frac{ h(\alpha) } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } \delta_{({\alpha}{},2 \alpha)} \tag{9.22} \end{align}
したがって,
$(D_3):$ もし $[\ast] = $ $ \left\{\begin{array}{ll} \delta_{(\frac{\alpha}{2}, \alpha)} \\ \delta_{({\alpha}{}, 2 \alpha)} \end{array}\right\} $ならば, あなたは変更は $ \left\{\begin{array}{ll} \alpha \longrightarrow \frac{\alpha}{2} \\ \alpha \longrightarrow 2{\alpha} \end{array}\right\} $ であって, 変更の利得は $ \left\{\begin{array}{ll} \frac{\alpha}{2} - \alpha (= - \frac{\alpha}{2} ) \\ 2{\alpha} - \alpha (= {\alpha}) \end{array}\right\} $ となる.

したがって, 変更による利得の期待値は 次のように計算できる. \begin{align} & \int_{\overline{\mathbb R}_+} \Big( (-\frac{\alpha}{2}) \frac{ \frac{h(\alpha/2)}{2} } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } + \alpha \frac{ h(\alpha) } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } \Big) P(d \alpha ) \nonumber \\ = & \int_{\overline{\mathbb R}_+} (-\frac{\alpha}{2})\frac{h(\alpha/2 )}{4} + \alpha \cdot \frac{h(\alpha )}{2} \;\; d \alpha =0 \tag{9.23} \end{align}

したがって, 変更してもしなくても,利得は変わらない.

サプリ 上だけでは、説明不十分かもしれないので、補足しておく。 分布$\rho_0$が既知か未知かであるが、未知ならば5.6節に帰すのだから、既知とする。 次は開封か未開封かの問題である。 ここで、
$(E_1):$ 開封: $(D_2)$で、測定値$\alpha$の値を知ってから判断する
$(E_2):$ 未開封: $(D_2)$で、測定値$\alpha$の値を知らずに判断する
とする。
開封の場合は明らかと思って、未開封の場合だけを上では議論した(上の議論が未開封の場合と同じことの議論は 自明なので省略する)。 しかし、開封の場合も述べておいた方が理解を深めるかもしれないので、以下のように補足しておく。 式(9.22)より、もう一方の封筒の期待値は、 \begin{align} \frac{ \frac{h(\alpha/2)}{2} \times \frac{\alpha}{2} } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } + \frac{ h(\alpha) \times 2 \alpha } {\frac{h(\alpha/2)}{2} + h(\alpha) } \end{align} であるから、これを測定値$\alpha$と比較すればよい。結果だけ書くと、 $4h(\alpha) \ge h(\alpha/2)$のとき交換、 $4h(\alpha) \le h(\alpha/2)$のとき非交換 となる。
$\square \quad$