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9.6.1: 問題5.1の復習: 純粋測定によるモンティ・ホール問題
問題9.15 [問題5.1の復習: 純粋測定(フィッシャーの最尤法)によるモンティ・ホール]
$\quad$ あなたはゲームショーに出演している. 3つのドア (すなわち,「1番」, 「2番」, 「3番」 ) のうちの 1つのドアの後ろには{自動車(当り)}, 他の2つのドアの後ろには 羊(はずれ)が隠されている. 司会者は,どのドアの後ろに自動車が隠されているかを知っている. しかし,あなたはそれを知らない.

ここで, 司会者は問う:「どのドアの後ろが自動車だと思いますか?」

さて,あなたはあるドアを選んだと仮定する. たとえば, 1番のドアを選んだとする. このとき, 司会者が 「実は,3番ドアの後ろは羊です」 と言う. 更に,司会者は問う. 「あなたは1番のドアを選んでしまいましたが, 今からでも変更可能ですよ. 2番のドア に変更しますか? 」と. さて,
  • あなたはどうするか?




解答 [問題5.1の復習($\S$5.5): 純粋測定(フィッシャーの最尤法)によるモンティ・ホール問題の解答]

状態空間を$\Omega = \{ \omega_1 , \omega_2 , \omega_3 \}$(離散距離空間)とおく. ここに,

\begin{align*} \omega_1 & \cdots \cdots \text{ 1番ドアの後ろに自動車が隠れている状態} \\ \omega_2 & \cdots \cdots \text{ 2番ドアの後ろに自動車が隠れている状態} \\ \omega_3 & \cdots \cdots \text{ 3番ドアの後ろに自動車が隠れている状態} \end{align*}

として, \begin{align*} \mbox{ 古典基本構造$[ C_0(\Omega ) \subseteq L^\infty (\Omega, \nu ) \subseteq B(L^2 (\Omega, \nu ))]\qquad$ (ここに, $ \nu(\{\omega_k \})=1, \; k=1,2,3$) } \end{align*} を得る. また, $L^\infty(\Omega)$内の 観測量 ${\mathsf O}$ ${{=}}$ $(\{ 1, 2,3 \}, 2^{\{1, 2 ,3\}}, F)$ は 次の{ように}定義される. \begin{align} & [F(\{ 1 \}{})](\omega_1{})= 0.0,\qquad [F(\{ 2 \}{})](\omega_1{})= 0.5, \qquad [F(\{ 3 \}{})](\omega_1{})= 0.5 \nonumber \\ & [F(\{ 1 \}{})](\omega_2{})= 0.0,\qquad [F(\{ 2 \}{})](\omega_2{})= 0.0, \qquad [F(\{ 3 \}{})](\omega_2{})= 1.0 \nonumber \\ & [F(\{ 1 \}{})](\omega_3{})= 0.0,\qquad [F(\{ 2 \}{})](\omega_3{})= 1.0, \qquad [F(\{ 3 \}{})](\omega_3{})= 0.0 \tag{9.24} \end{align} したがって, あなたは測定 ${\mathsf M}_{L^\infty(\Omega)} ({\mathsf O} {{=}} (\{ 1, 2,3 \}, 2^{\{1, 2 ,3\}}, F), S_{[{}\ast{}]})$ ─ 「1番ドアの後ろに自動車が隠れている」 と言って, 司会者の返事を聞く測定 ─ を行ったことになる. \begin{align*} (1)\ & \text{測定値 $1$ を得る} \Longleftrightarrow \text{司会者が「1番ドアの後ろに 羊がいる」と言う} \\ (2)\ & \text{測定値 $2$ を得る} \Longleftrightarrow \text{司会者が「2番ドアの後ろに 羊がいる」と言う} \\ (3)\ & \text{測定値 $3$ を得る} \Longleftrightarrow \text{司会者が「3番ドアの後ろに 羊がいる」と言う} \end{align*} とする.

司会者が「3番ドアの後ろに 羊がいる」と教えてくれたのだから, 測定 ${\mathsf M}_{L^\infty(\Omega)} ({\mathsf O},$ $ S_{[\ast]}{})$ によって, 測定値" 3"を得たことになる. したがって, フィッシャーの最尤法(定理5.6)により, あなたは 2番ドアを選ぶべきだ となる.なぜならば \begin{align*} \max \{ [F(\{3\}{})] (\omega_1{}), [F(\{3 \}{}){}](\omega_2{}), [F(\{3 \}{})] (\omega_3{}) \} & =\max \{ 0.5, \; \; 1.0 , \; \; 0.0 \} \\ & = 1.0 = [F(\{3\}{})] (\omega_2{}) \end{align*}

なので, $[\ast]$ $=$ ${\omega_2}$ と推定できる. したがって,あなたは 2番ドアに変更すべきである.

$\square \quad$


9.6.2:混合測定(ベイズ統計)によるモンティ・ホール問題


さて、次に モンティホール問題 を ベイズ統計学の枠組み内で議論しよう.


問題9.16 [混合測定(ベイズの定理)によるモンティ・ホール問題]


$\quad$ あなたはゲームショーに出演している. 3つのドア (すなわち,「1番」,「2番」,「3番」) のうちの 1つのドアの後ろには{自動車}, 他の2つのドアの後ろには 羊(はずれ)が隠されている.司会者は,どのドアの後ろに自動車が隠されているかを知っている. しかし, あなたはそれを知らない. ここで,司会者は問う: 「どのドアの後ろが自動車だと思いますか?」 あなたはあるドアを選んだと仮定しよう. たとえば, 1番のドアを選んだとする. ここで,司会者は あなたに次のことを言う.
$(\sharp):$ ゲームの主催者がフェアなサイコロを投げて, 出た目が1,2 ならば 1番ドア, 3,4 ならば 2番ドア, 5,6 ならば 3番ドア の後ろに自動車を置いた.


さらに,, 司会者が 「実は,3番ドアの後ろは羊です」 と言う. 更に,司会者は問う. 「あなたは1番のドアを選んでしまいましたが, 今からでも変更可能ですよ. 2番のドア に変更しますか? 」と. さて,あなたはどうするか?




解答 問題9.15 (モンティ・ホール問題:フィッシャーの最尤法による解答) と同様に, 状態空間を離散距離空間$\Omega = \{ \omega_1 , \omega_2 , \omega_3 \}$として, 測度$\nu (\{ \omega_k \})=1$ $(k=1,2,3)$とする. 観測量 ${\mathsf O}=(X, {\cal F}, F)$ も同様に定める. また, 仮定$({{\sharp}} )$によって, 混合状態$w_e$ $(\in L^1_{+1}(\Omega ))$を \begin{align*} w_e(\omega) =1/3 \quad (\forall \omega \in \Omega ) \end{align*} とする. しかし, 解答の難しさは同じことなので, 主催者がアンフェアなサイコロ投げで決めたとしよう. すなわち, 混合状態 $w_0$ $({}\in {\cal M}_{+1}^m ({}\Omega{}){})$ を以下のように仮定しよう. \begin{align*} w_0(\omega_a)= p_1^{}, \quad w_0(\omega_2)= p_2^{}, \quad w_0(\omega_3)= p_3^{}, \end{align*} ここで, $p_a^{} + p_2^{} + p_3^{} =1$, $ 0 \le p_a^{} , p_2^{} , p_3^{} \le 1 $. よって, 混合測定 ${\mathsf M}_{L^\infty (\Omega)} ({\mathsf O}, {\overline S}_{[{}\ast{}]}(w_0 ))$ を得る. すなわち, 混合測定 ${\mathsf M}_{L^\infty (\Omega)} ({\mathsf O}, {\overline S}_{[{}\ast{}]}(w_0 ))$ ─ 「1番ドアの後ろに自動車が隠れている」 と言って, 司会者の返事を聞く測定 ─ を行うことになる. 司会者が「" 3番ドアの後ろに 羊がいる」と教えてくれたのだから, 混合測定 ${\mathsf M}_{C(\Omega)} ({\mathsf O}, {\overline S}_{[\ast]}{}({w_0} ))$ によって, 測定値" 3"を得たことになる. したがって, ベイズの定理9.11により, 事後の混合状態$w_{\rm post} (\in L^1_{+1}(\Omega ))$は, 次のように計算できる. \begin{align*} w_{\rm post} (\omega) & = \frac{ [F(\{ 3 \} {})]( \omega) {w_0}( \omega{})}{\int_\Omega [F( \{ 3 \} {})]( \omega) {w_0}(\omega ) \nu (d \omega{})} \qquad (\forall \omega \in \Omega ) \\ \\ & = \begin{cases} \frac{\displaystyle \frac{p_1}{2} }{\displaystyle \frac{p_1}{2} + p_2 } \quad & (\omega=\omega_1 \text{のとき}) \\ \frac{\displaystyle p_2 }{\displaystyle \frac{p_1}{2} + p_2} \quad & (\omega=\omega_2 \text{のとき}) \\ \quad 0 \quad & (\omega=\omega_3 \text{のとき}) \end{cases} \end{align*} さて, $p_1=p_2=p_3=1/3$ のときは, \begin{align*} w_{\rm post} ({}{ {{\omega_1}} }{})=1/3 \quad w_{\rm post} ({}{ {{\omega_2}} }{}) =2/3 \quad w_{\rm post} ({}{ {{\omega_3}} }{})= 0. \end{align*} であるから, あなたは 2番ドアを選ぶべきと結論できる.

$\square \quad$
$\fbox{注釈9.3}$実は、
  • ベイズの方法によるモンティ・ホール問題は未解決問題
である。 以下にこれについて述べる。
ゲームショーの主催者がいつもサイコロを振って 自動車の置き場所を決定するわけではないので, 問題9.16の条件$(\sharp)$は不自然と考えるのは一理ある. ゲームの主催者 が意図的に 自動車をどれかのドアの後ろに置いたとしたら,この解答 は使えないからである. ベイズの定理自体は問題がないが,ベイズの定理 を使うときには,しばしば等重率(=等確率の原理)(すなわち, 「情報がないときは事前確率を等確率と見なせ」という規則) を使う. したがって, 等重率の正当性が示されなければ, ベイズの方法によるモンティ・ホール問題は未解決問題と考える.
ベイズ統計における モンティ・ホール問題の最終解答は

  • 次節と$\S$18.2


で述べる.