10.3:言語ルール2
---火の無いところに,煙は立たない
10.3.1:因果関係の連鎖
前節の議論をまとめて,
次の言語ルール2を主張する.
これは,
因果関係
---
「火の無いところに,煙は立たない」という格言
---
の
測定理論による表現と思えば良いだろう.
10.3.2:因果作用素列の例─「連立一階微分方程式」等
連続時間$T={\mathbb R}$
(時間軸)を考える.
順序「$\leqq$」は通常の「大小関係」とする.
各$t ( \in T)$
に対して,
状態空間$\Omega_t$
を
$\Omega_t = {\mathbb R }^n$
($n$-次元ルベーグ測度空間)
と定める.
状態方程式
,
すなわち,
次の時変数の連立1階微分方程式(10.13}})
を考える:
\begin{align}
&
\begin{cases}
\frac{d\omega_1}{dt}{} (t)=v_1(\omega_1(t),\omega_2(t),\ldots,\omega_n(t), t)
\\
\frac{d\omega_2}{dt}{} (t)=v_2(\omega_1(t),\omega_2(t),\ldots,\omega_n(t), t)
\\
\cdots \cdots
\\
\frac{d\omega_n}{dt}{} (t)=v_n (\omega_1(t),\omega_2(t),\ldots,\omega_n(t), t)
\end{cases}
\tag{10.13}
\end{align}
この微分方程式が生成する
決定的因果写像を
$\phi_{t_1,t_2}: \Omega_{t_1} \to \Omega_{t_2}$,
$(t_1 {\; \leqq \;} t_2)$
とする.
このとき,
$\phi_{t_2,t_3} (\phi_{t_1,t_2} (\omega_{t_1}))
=
\phi_{t_1,t_3} (\omega_{t_1})
$
$(\omega_{t_1} \in \Omega_{t_1} , t_1 {{\; \leqq \;}}t_2 {{\; \leqq \;}}t_3)$
は明らかなので,
定理10.5より,
決定的因果作用素列
$\{ \Phi_{t_1,t_2}{}: $
${L^\infty (\Omega_{t_2})} \to {L^\infty (\Omega_{t_1})} \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$
を得る.
例 10.14 [2階差分方程式]
離散時間$T=\{0, 1 ,2,\ldots \}$を考える.
親写像$\pi: T\setminus\{0\} \to T$
を
$\pi(t )=t-1
\;
(\forall t =1,2,...)$
とする.
各$t ( \in T)$
に対して,
状態空間$\Omega_t$
を
$\Omega_t = {\mathbb R }$
と定める.
たとえば,
次の差分方程式を考える.すなわち,
$\phi: \Omega_{t}\times \Omega_{t+1} \to \Omega_{t+2}$
は次を満たす:
\begin{align*}
\omega_{t+2} =\phi( \omega_t , \omega_{t+1} ) = \omega_t + \omega_{t+1} +2
\qquad
(\forall t \in T )
\end{align*}
ここで,
状態
$\omega_{t+2}$
が1単位時間前の状態
$\omega_{t+1}$
だけではなくて
2単位時間前の状態
$\omega_{t}$
にも依存することに注意しよう
(一般には,
「多重マルコフ性」
と呼ばれる).
このような場合は,
以下のように多少の工夫が必要である.
各$t ( \in T )$
に対して,新たな状態空間を
${\widetilde \Omega}_t =$
$\Omega_t \times \Omega_{t+1}
= {\mathbb R }\times {\mathbb R }$
で定めて,
決定的因果写像
$\widetilde{\phi}_{t,t+1} :
{\widetilde \Omega}_t \to
{\widetilde \Omega}_{t+1}$
は次のように定める:
したがって,定理10.5定理
より,
決定的因果作用素
$\widetilde{\Phi}_{t,t+1} :
L^\infty ({\widetilde \Omega}_{t+1}) \to
L^\infty ({\widetilde \Omega}_{t})$
は,
によって定義できて,
決定的因果作用素列
$\{ {\widetilde{\Phi}}_{t,t+1}{}: $
$L^\infty (\widetilde{\Omega}_{t+1}) \to L^\infty (\widetilde{\Omega}_{t}) \}_{t \in
T \setminus \{0\}
}$
を得る.
$T$を
木半順序集合
として, 各$t (\in T)$に対して,
基本構造
$[{\mathcal A}_t \subseteq \overline{\mathcal A}_t]_{ B(H_t)}$
が定まっているとする.このとき,
因果関係
の連鎖は
因果作用素列
$ \{ \Phi_{t_1,t_2}{}: $
${\overline{\mathcal A}_{t_2}} \to {\overline{\mathcal A}_{t_1}} \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$
により表現される。
$\fbox{注釈10.4}$
言語ルール1(測定)と同様に、この言語ルール2(因果関係)も
一種の呪文である。
量子言語以外でも、
「運動(や変化・発展)」に関する呪文はいろいろとある。
たとえば、
$(\sharp_1):$
[アリストレレス]: 目的因(運動には目的がある)
$(\sharp_2):$
[ダーウィン]: 進化論(適者生存)
$(\sharp_3):$
[ヘーゲル]: 弁証法(正(テーゼ:thesis), 反(アンチテーゼ:antithesis), 合(ジンテーゼ:synthesis))
等である。($\sharp_1$)--($\sharp_3$)
は、非数量的であるが、($\sharp_4$)は数量的である。
$(\sharp_4):$
エントロピー増大則
ことは事実で、
その偉大な効力には誰も異を唱えないと思う。
しかし、本書では言語ルール2(因果関係)に集中する。
著者は、
と信じてている。
以下で,
「因果関係の連鎖」を,
測定理論の言葉で記述する演習を行なう.
例 10.13 [状態方程式(=連立一階微分方程式)]
$\fbox{注釈10.5}$
諸科学の運動・変化において,「現在」ばかりでなくて,
「過去」の状態までが,次の状態に
影響すると考えたいことはよくあることなので,「多重マルコフ性」
の例を述べた.
多重マルコフの系や時間遅れの系も,
状態空間を工夫して,
因果作用素列で表すのが,測定理論の基本である.
状態方程式(10.13)
を連立一階微分方程式で書いたのもこの理由による.
もちろん,
原則・理論としての話で,
応用・計算等ではその限りではない.
10.3:因果関係 ---火の無いところに,煙は立たない
This web-site is the html version of "Linguistic Copehagen interpretation of quantum mechanics; Quantum language [Ver. 4]" (by Shiro Ishikawa; [home page] )
PDF download : KSTS/RR-18/002 (Research Report in Dept. Math, Keio Univ. 2018, 464 pages)
(C):言語ルール2: 因果関係の連鎖