10.4: ハミルトニアン(簡単の為,非時変形とする)
普通は,
$1$-粒子系では,
$\Omega={\mathbb R}^6
=\{ (q_x, q_y, q_z, p_x, p_y ,p_z )\}$.
$N$-粒子系では,
$\Omega ={\mathbb R}^{6N}$
であるが,ここでは一番簡単な場合${\mathbb R}^2$を扱う.
質量$m$の質点$P$を考えて,
\begin{align}
{\mathbb R}^2
=
{\mathbb R}_q\times{\mathbb R}_p
{{=}}
\{ (q,p)=(位置,
運動量)
\; | \; q,p\in{\mathbb R}\}
\tag{10.14}
\end{align}
とする.もちろん,
$[運動量:p]=[質量:m]$ $\times$
$[速度: \frac{dq}{dt}$]である.
全エネルギー(=E)
を
ハミルトニアン${\mathcal H}(q,p)$とすれば,典型的な例としては,
以下のようになる.
\begin{align}
&
[{\mbox{ハミルトニアン}}(={\mathcal H}(q,p))]
\nonumber
\\
=
&
[運動エネルギー(=\frac{p^2}{2m})]
+
[ポテンシャルエネルギー(=V(q))]
\tag{10.15}
\end{align}
ハミルトニアン
${\mathcal H}(q,p)$
を持つ「古典系の運動方程式(ハミルトンの正準方程式)」は,
以下のように定義される.
\begin{align}
正準方程式=
\begin{cases}
\frac{dp}{dt}=-\frac{{\mathcal H}(q,p)}{\partial q}
\\
\\
\frac{dq}{dt}=\frac{{\mathcal H}(q,p)}{\partial p}
\end{cases}
\tag{10.16}
\end{align}
(10.15)式の場合は,
\begin{align}
正準方程式=
\begin{cases}
\frac{dp}{dt}=-\frac{{\mathcal H}(q,p)}{\partial q}=-\frac{\partial V(q,p)}{\partial q}
\\
\\
\frac{dq}{dt}=\frac{{\partial \mathcal H}(q,p)}{\partial p}=\frac{p}{m}
\end{cases}
\tag{10.17}
\end{align}
となり,これはニュートンの運動方程式と同じ,すなわち,
\begin{align*}
m \frac{d^2 q}{dt^2}=[質量] \times [加速度]= -\frac{\partial V(q,p)}{\partial q}(=力)
\end{align*}
となる.
さて,上の(10.17)式を,量子言語で記述することを考えよう.
各$t \in T={\mathbb R}$に対して,
状態空間$\Omega_t$を
とおく. 測度$\nu$はルベーグ測度としておこう.
このとき,古典系の基本構造
したがって,
因果作用素列
$\{ \Phi_{t_1, t_2} : L^\infty (\Omega_{t_2} ) \to L^\infty (\Omega_{t_1} ) \}_{(t_1, t_2 )\in T^2_{\le}}$
は,
量子化とは次の手続きを言う.
「これでは,何を言っているのか」わからないで,
「後ろから$u(t,q)$」を掛けて,次の
シュレーディンガー方程式
を得る.
各$t \in T={\mathcal R}$に対して,
$u(t, \cdot )=u_t \in L^2({\mathbb R} )$と定めれば,シュレーディンガー方程式(10.23)は,
ニュートンの運動方程式(=ハミルトンの正準方程式)
10.4.3: シュレーディンガー方程式(ハミルトニアンの量子化)
すなわち、量子化公式をハミルトニアン:
\begin{align*}
E={\mathcal H}(q,p)=\frac{p^2}{2m} + V(q)
\end{align*}
に代入すれば(すなわち,量子化すれば),
\begin{align}
{ \hbar \sqrt{-1}}
\frac{\partial }{\partial t }
=
{\mathcal H}(q, \frac{\hbar}{\sqrt{-1}} \frac{ \partial}{
{}
\partial q })
=
- \frac{\hbar^2}{2 m} \frac{ \partial^2 }{ \partial q^2 }
+
V(q)
\tag{10.22}
\end{align}
を得る.
ここに,$u_0 \in L^2({\mathbb R} )$は初期条件. さて,ヒルベルト空間$H=L^2({\mathbb R})$を設定して, 量子系の基本構造
\begin{align*} {\mathcal C}(L^2({\mathbb R})) \subseteq B(L^2({\mathbb R})) \subseteq B(L^2({\mathbb R})) \end{align*}内の議論をしよう. 双対因果作用素列 $\{ \Phi_{t_1, t_2}^* : {\mathcal Tr}(H) \to {\mathcal Tr}(H) \}_{(t_1, t_2 )\in T^2_{\le}}$ (また,これは 前双対因果作用素列 $\{ (\Phi_{t_1, t_2})_* : {\mathcal Tr}(H) \to {\mathcal Tr}(H) \}_{(t_1, t_2 )\in T^2_{\le}}$ でもある)は,
\begin{align} \Phi_{t_1, t_2}^* (\rho)=e^{\frac{\mathcal H}{\hbar \sqrt{-1}}(t_2-t_1)} \rho e^{\frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}(t_2-t_1)} \quad (\forall \rho \in {\mathcal Tr}(H)) \tag{10.25} \end{align} となる.したがって, 因果作用素列 $\{ \Phi_{t_1, t_2} : B(H) \to B(H) \}_{(t_1, t_2 )\in T^2_{\le}}$ は, \begin{align} \Phi_{t_1, t_2} (A)=e^{\frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}(t_2-t_1)} A e^{\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}(t_2-t_1)} \quad (\forall A \in B(H)) \tag{10.26} \end{align} となる. また, \begin{align*} \Phi_{t_1, t_2}^*( {\frak S}^p({\mathcal C}(H)^* ) ) \subseteq {\frak S}^p({\mathcal C}(H)^* ) \end{align*}
であるから,これは 決定的因果作用素列となる. 上では,非時変系を扱ったので, $t=t_2-t_1$とおいて,(10.26)式は,
\begin{align} A_t=\Phi_t(A_0)= e^{\frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t} A_0 e^{\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t} \tag{10.27} \end{align} なので,微分方程式で書けば, \begin{align} \textcolor{magenta}{ \frac{dA_t}{dt} } &= \frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}} e^{\frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t} A_0 e^{\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t} + \frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}} e^{\frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t} A_0 e^{\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}t}\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}} \nonumber \\ & { = \frac{-{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}}A_t + A_t\frac{{\mathcal H}}{\hbar \sqrt{-1}} } \textcolor{magenta}{ = \frac{1}{\hbar \sqrt{-1}} \Big( A_t {\mathcal H} - {\mathcal H}A_t \Big) } \tag{10.28} \end{align} となり,これが, ハイゼンベルグの運動方程式 である.シュレーディンガー方程式(波動関数の方程式) と ハイゼンベルグの運動方程式(観測量の方程式) は 通常は同値とされているが、 量子言語(=言語的コペンハーゲン解釈)の立場は, 「状態(や波動関数)は動かない」なのだから、
$\bullet$ | ハイゼンベルグ描像が正式で, シュレーディンガー描像は場合の手法 |
である.