統計学の本も量子力学の本も、普通は「数学でなくて算数で」書かれている。 これは、学ぶべきことで、量子言語も「算数で書かれている本・説明」が必要と考えている。 ぜひ誰かにこれを実行してもらいたい。

  • 将来的には、「算数的量子言語」の本が大多数になる
と考えるからである。そうでなければ、普及するわけがない。
しかし、今のところ、「以下のような数学的議論」を通過しなければ、著者にとっては気持ちが悪い。 説明される側にとっては、どうでもいいことなのかもしれないので、スキップしてもらっても構わない。



木半順序集合 (in 12.1節(有限測定理論の因果関係) の議論を無限測定理論に一般化する. $(T,{{\; \leqq \;}})$ を木半順序集合, すなわち, 半順序集合で \begin{align*} \text{ "$t_1 {{\; \leqq \;}}t_3$ かつ $t_2 {{\; \leqq \;}}t_3$" $\Longrightarrow$ "$t_1 {{\; \leqq \;}}t_2$ または $t_2 {{\; \leqq \;}}t_1$" } \end{align*} を満たすとする. ただし, ここ では, $T$は 有限集合とは限らないとする. $T^2_{\leqq}= \{ (t_1,t_2) \in T^2{}: t_1 {{\; \leqq \;}}t_2 \}$ とおく. 要素 $t_0 \in T$が, $t_0 {{\; \leqq \;}}t$ ($\forall t \in T$) を 満たすとき, ルート と呼ぶ. 木半順序集合$T$はルートをもつとは限らないが, ルートをもつ場合,しかもそれを明示したい場合は, $T$ を $T{(t_0)}$ と記す.
典型的な例としては,第6章 で述べた有限半順序集合:

や通常の順序関係の下で, 非負実数全体$T(0)=\{ t \in {\mathbb R} \;|\; t {\; \geqq \;}0 \}$ とか 自然数全体$T(1)=\{1,2,\ldots \}$ などを想定すればよい.




部分集合$T' (\subseteq T )$ が, 下に有界 とは, $t_i {{\; \leqq \;}}t $ $(\forall t \in T')$ となる $t_i \in T$ が存在するときを言う. したがって, もし$T$がルートをもつ場合は, 任意の$T' (\subseteq T )$ は,下に有界である.
$T$は(木半順序集合の意味で) 完備 と仮定する. すなわち, 任意の下に有界な部分集合$T' (\subseteq T )$ に対して, 次の (i)と (ii)を満たす${\rm Inf}_T ( T' ) (\in T )$が一意に存在すると仮定する.

$(i):$ ${\rm Inf}_T ( T' ) {{\; \leqq \;}}t \qquad ( \forall t \in T' )$
$(ii):$ もし $s {{\; \leqq \;}}t \; \; ( \forall t \in T' )$ ならば, $s {{\; \leqq \;}}{\rm Inf}_T ( T' )$が成り立つ.
ただし, 本書では,$T$の位相・距離についての 議論は省く.






$(T{(t_0)}, {{\; \leqq \;}})$をルート$t_0$をもつ (有限または無限)木半順序集合とする. 各 ${t}\in{{T}}$に対して, 可分完備距離空間 $X_{t}$を定めて, $(X_{t} , {\cal F}_{{t}}{})$を そのボレル可測空間, ${\mathsf O}_t {{=}} (X_t, {\cal F}_t, F_t)$ を $\overline{\mathcal A}_t$ 内の 観測量 とする. すなわち, (無限)因果観測量列$[{}{\mathsf O}_{T(t_0)}{}]$ $=$ $[{}\{ {\mathsf O}_t \}_{ t \in T} , \{ \Phi_{t_1,t_2}{}: $ ${L^\infty (\Omega_{t_2}, \nu_{t_2})} \to {L^\infty (\Omega_{t_1}, \nu_{t_1})} \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$ $]$ を考える.




復習14.1 [定義12.4の復習]
有限の場合 の因果観測量列(sequential causal observable)の実現化は簡単で、以下のように復習しておく:


ここで, $\overline{\cal P}_0(T)$ $( = \overline{\cal P}_0(T(t_0)) \subseteq {\cal P}(T) )$ を次のように定める: \begin{align} \overline{\cal P}_0(T(t_0))= \{ {T'} \subseteq T \;|\; {T'} は有限集合, t_0 \in T' かつ {\rm Inf}_{T'} S = {\rm Inf}_T S \;\; (\forall S \subseteq T') \} \tag{14.1} \end{align} ${T'{(t_0)}} \in \overline{\cal P}_0(T{(t_0)} )$ とする. $(T'(t_0), {{\; \leqq \;}})$ は,有限木半順序集合なので, 親写像を用いて, $({T'} {{=}} \{ t_0, t_1,\ldots , t_N \},$ $ \pi{}: {T'} \setminus \{t_0\} \to T'{})$ と書ける.
さて, 因果観測量列 \begin{align*} [{}\{ {\mathsf O}_t \}_{ t \in {T'}} , \{ \Phi_{\pi(t), t }{}: \overline{\mathcal A}_{t} \to \overline{\mathcal A}_{\pi(t)} \}_{ t \in {T'} \setminus \{t_0\} } ] \end{align*} を考えよう. 各 $s$ $(\in {T'}{})$に対して, $T_s =\{ t \in T' \;|\; t {\; \geqq \;}s \}$ と定めて, $\overline{\mathcal A}_{s}$ 内の観測量 $\widehat{\mathsf O}_s {{=}} ({{{\times}}}_{t \in T_s } X_t, $ $\boxtimes_{t \in T_s } {\cal F}_t, {\widehat F}_s)$ を以下の規則で定める ($T'$が有限なので,前節と同じ議論で):

\begin{align} \widehat{\mathsf O}_s = \begin{cases} {\mathsf O}_s \quad & \text{($ s \in {T'} \setminus \pi ({T'}) $ のとき)} \\ \\ {\mathsf O}_s {\times} ({ \underset{{t \in \pi^{-1} (\{ s \}{})}}{{{{\times}}}} } \Phi_{ \pi(t), t} \widehat {\mathsf O}_t{}) \quad & \text{($ s \in \pi ({T'}) $ のとき)} \end{cases} \tag{14.2} \end{align} これを逐次的に行なって( 量子系の場合は必ずしも可能とは限らないが), $\widehat{\mathsf O}_{t_0}{{=}} ({{{\times}}}_{t \in T' } X_t, $ $\boxtimes_{t \in T' } {\cal F}_t, {\widehat F}_{t_0})$ を得る.これは${T'}$ $(\in \overline{\cal P}_0(T))$ に依存しているので, \begin{align} \widehat{\mathsf O}_{{T'}}{{=}} ({{{\times}}}_{t \in T' } X_t, \boxtimes_{t \in T' } {\cal F}_t, {\widehat F}_{T'}) \nonumber%\tag{13.9} \end{align} とも記す.



無限の場合(上の有限の場合を無限に拡張)は、単なる数学的テクニックの問題で、スキップも可

たとえば、統計学だってその数学的基盤は「コルモゴロフの拡張定理」であるが、それを使いこなせる統計学者はほとんどいない。 使いこなせなくても、一流の統計学者はいくらでもいる。

  • と言う意味で、以下はスキップ可



無限の場合(以下で,上の有限の場合を無限に拡張する)
任意の部分集合 $T_{1} \subseteq T_{2}( \subseteq {{T}}{})$ に対して, 自然な射影写像 $ \pi_{T_{1},T_{2}}: {{{\times}}}_{{t} \in T_{2}} X_{{t}} \longrightarrow {{{\times}}}_{{t} \in T_{1}} X_{{t}} $ を, \begin{align} {{{\times}}}_{t\in T_{2}}X_{t} \ni (x_t )_{t \in T_2 } \mapsto (x_t )_{t \in T_1} \in {{{\times}}}_{t\in T_{1}}X_{t} \tag{14.3} \end{align} によって定める.
上で定めた $ \overline{\mathcal A}_{t_0} $ 内の 観測量の族 \begin{align} \bigl\{ \widehat{\mathsf O}_{T'}{{=}} ({{{\times}}}_{t \in T' } X_t, \boxtimes_{t \in T' } {\cal F}_t, {\widehat F}_{T'}) ~|~ {T'}\in{\overline{\cal P}_0}({{T}}) \bigr\} \nonumber%\tag{13.11} \end{align}

は, 明らかに次の 一貫性条件 を満たす ( 定理4.1では, ${{\cal P}_0}({{T}})$を考えたが, ${\overline{\cal P}_0}({{T}})$ でも同様な議論ができる.)
すなわち,

$\quad$ $T_1 \subseteq T_2$を満たす 任意の$T_1, T_2$ ($\in$ ${\overline{\cal P}_0}({ {T}})$)に対して,次を満たす:
\begin{align} {\widehat F}_{T_2} \bigl( \pi_{T_{1},T_{2}}^{-1}({\Xi}_{T_1}{}) \bigr) = {\widehat F}_{T_1} \bigl({\Xi}_{T_1} \bigr) \quad (\forall {\Xi}_{T_1} \in \boxtimes_{{t} \in T_1} {\cal F}_{{t}}{}) %% \tag{14.4} \end{align}

したがって, 定理4.1[測定理論版のコルモゴロフの拡張定理] により, 次を満たす$\overline{\mathcal A}_{t_0}$内の観測量 ${\widehat{\mathsf O}}_{{{T}}}$ ${{=}}$ $\bigl({{{\times}}}_{{t} \in {T}}X_{{t}}, $ $\boxtimes_{{t}\in{{T}}} {\cal F}_{{t}},$ ${\widehat F}_{{T}} \bigr)$ が唯一存在する:

\begin{align} {\widehat F}_{{T}} \bigl( \pi_{{T_0, T}}^{-1}({\Xi}_{{T_0}}{}) \bigr) = {\widehat F}_{{T_0}} \bigl({\Xi}_{{T_0}} \bigr) \quad (\forall {\Xi}_{{T_0}} \in \boxtimes_{{t}\in{T_0}} {\cal F}_{{t}},~ \forall{T_0}\in{\overline{\cal P}_0}({{T}}){}) %%\t \tag{14.5} \end{align}


この観測量 ${\widehat{\mathsf O}}_{{{T}}}$ ${{=}}$ $({{{\times}}}_{{t} \in {T}}X_{{t}}, $ $\boxtimes_{{t}\in{{T}}} {\cal F}_{{t}},$ ${\widehat F}_{{T}} )$ を, 因果観測量列 $[{}{\mathsf O}_{T(t_0)}{}]$ $=$ $[{}\{ {\mathsf O}_t \}_{ t \in T} ,$ $ \{ \Phi_{t_1,t_2}{}: $ ${L^\infty (\Omega_{t_2}, \nu_{t_2})} $ $\to {L^\infty (\Omega_{t_1}, \nu_{t_1})} \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$ $]$ の 実現因果観測量 と呼ぶ.





古典系に限れば、次のようにまとめることができる。



定理 14.2 [古典系における無限実現因果観測量の存在定理]

$T(=木半順序集合)$はルート$t_0$を持つとする. 各$t \in T(=木半順序集合)$に対して,古典基本構造: \begin{align*} [ C_0(\Omega_t ) \subseteq L^\infty(\Omega_t, \nu_t ) \subseteq B(L^2(\Omega_t, \nu_t ) ) ] \end{align*} を考える. 各 ${t}\in{{T}}$に対して, 可分完備距離空間 $X_{t}$, ボレル可測空間 $(X_{t} , {\cal F}_{{t}}{})$ を定める。 ここで、 因果観測量列$[{}{\mathsf O}_{T(t_0)}{}]$ $=$ $[{}\{ {\mathsf O}_t \}_{ t \in T} , \{ \Phi_{t_1,t_2}{}: $ $ L^\infty (\Omega_{t_2} ,\nu_{t_2} ) \to L^\infty (\Omega_{t_1} ,\nu_{t_1} ) \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$ $]$ を考える。 このとき、 次を満たす$L^\infty (\Omega_{t_0} ,\nu_{t_0} )$ 内の 実現因果観測量 ${\widehat{\mathsf O}}_{{{T}}}$ ${{=}}$ $\bigl(\times_{{t} \in {T}}X_{{t}}, $ $\boxtimes_{{t}\in{{T}}} {\cal F}_{{t}},$ ${\widehat F}_{{T}} \bigr)$ がただ一つ存在する:

\begin{align} {\widehat F}_{{T}} \bigl( \pi_{{{T'}, T}}^{-1}({\Xi}_{{{T'}}}) \bigr) = {\widehat F}_{{{T'}}} \bigl({\Xi}_{{{T'}}} \bigr) \quad (\forall {\Xi}_{{{T'}}} \in \boxtimes_{{t}\in{{T'}}} {\cal F}_{{t}},~ \forall{{T'}}\in{\overline{\cal P}_0}({{T}})) %%\t \tag{14.6} \end{align}