19.2.1: 量子言語の全体像

測定理論 (= 量子言語 ) は以下のように,分類できる

$(B):$ $ \underset{(=\mbox{ 量子言語})}{\mbox{測定理論}} \left\{\begin{array}{ll} \underset{\mbox{($\sharp_1$)}}{ \mbox{純粋系}} \left\{\begin{array}{ll} \!\! \mbox{古典システム} : \mbox{ フィッシャー統計学} \\ \!\! \mbox{ 量子システム} : \mbox{ 通常の量子力学 } \\ \end{array}\right. \\ \\ \underset{\mbox{($\sharp_2$)}} {\mbox{混合系}} \left\{\begin{array}{ll} \!\! \mbox{ 古典システム} : \mbox{ベイズ統計学, }\\ \qquad \qquad \mbox{カルマンフィルタ} \\ \!\! \mbox{ 量子システム} : \mbox{ 量子デコヒーレンス } \\ \end{array}\right. \end{array}\right. $
その内訳は,以下のようになる.

$(C_1)$ $ \underset{\mbox{ (=量子言語)}}{\fbox{純粋測定理論 (A)}} := \underbrace{ \underset{\mbox{ (\(\S\)2.7)}}{ \overset{ [\mbox{ (純粋) 言語ルール1}] }{\fbox{純粋測定}} } \quad + \quad \underset{\mbox{ ( \(\S \)10.3)}}{ \overset{ [{\mbox{ 言語ルール2}}] }{\fbox{因果関係}} } }_{\mbox{ 一種の呪文 (アプリオリな総合判断)}} + \underbrace{ \underset{\mbox{ (\(\S\)3.1) }} { \overset{ {}}{\fbox{言語的解釈}} } }_{\mbox{ 呪文の使い方のマニュアル}} $



$(C_2)$ $ \underset{\mbox{ (=量子言語)}}{\fbox{混合測定理論 (A)}} := \underbrace{ \color{red}{ \underset{\mbox{ (\(\S\)9.1)}}{ \overset{ [\mbox{ (混合) 言語ルール1}] }{\fbox{混合測定}} } } \quad + \quad \underset{\mbox{ ( \(\S \)10.3)}}{ \overset{ [{\mbox{ 言語ルール2}}] }{\fbox{因果関係}} } }_{\mbox{ 一種の呪文 (アプリオリな総合判断)}} + \underbrace{ \underset{\mbox{ (\(\S\)3.1) }} { \overset{ {}}{\fbox{言語的解釈}} } }_{\mbox{ 呪文の使い方のマニュアル}} $

であった.
ここで,言語ルール1と2は必要不可欠であるが, 言語的解釈(言語ルール1と2の使い方マニュアル)の説明は,次の($E_1$)と($E_2$)のいずれもが可である.
$(E_1):$ 言語ルール1と2を試行錯誤で使い続けていれば, 言語的解釈は自然に会得できるもので,とりたてて本書で書く必要がなかった


$\qquad \qquad \qquad $世界記述史の図式


$(E_2):$ 本書はマニュアル本(クックブック)であって,本書で書いたすべてが言語的解釈である.とは言っても,特に重要なのは,
  • 観客は舞台に上がってはならない
  • 測定は,一回だけ
  • 測定者の時空はない
である. 図式19.1(右図)のHを信じるならば、確率論の基本精神「確率空間は一つだけ」が、量子言語の「測定は,一回だけ」に引き継がれると考えるのは自然と思う。



また,
$(E_3):$ 哲学の本流(二元論的観念論)の系譜(右の図式19.1の@---E---G)の到達点が量子言語という主張なのだから, ギリシャ以来の哲学者の金言の多くは,言語的解釈の一部を構成している
ことは必然と思う.






19.2.2 量子言語の特徴
量子言語は次の特徴を持つ:


量子言語の特徴
$(F_1):$ ノン・リアリティ(形而上学): 量子言語は,「初めに言葉ありき」の精神の 言語的科学観に準拠している形而上学である. したがって,量子言語のすべてが「計算の為の道具」である.
$(F_2):$ 測定による波動関数の収縮はない: 「測定は一回だけ」なので,測定後の状況についての情報を得ることができない. したがって,測定後のことは一切何も言わない. 「(絵画・映画を観ているようなもので)観客は舞台に上がらない」のだから、 波動関数の収縮は意味をもたない。 しかしながら、 "射影公準 11.6 ( in Section 11 )"の意味で、"波束の収縮"を量子言語で記述できる。
$(F_3):$ 隠れた変数の非重要性: 隠れた変数の問題意識自体が重要というわけではない. というよりは、 我々は、「量子力学には,本当の問題は存在しない」と結論したのだから、 隠れた変数について何も言及できない。 そもそも、「隠れた変数」の意味すら明確ではないし、これを明確化する必要もないと 考える。
$(F_4):$ 非決定的: 古典系の動的システム理論では、 非決定的過程(=マルコフ過程)を考えることは、普通である。 よって、量子言語においても、 決定的因果作用素だけでなくて, マルコフ因果作用素も考える. したがって,シュレーディンガー方程式とかニュートン方程式だけでなく量子デコヒーデレンスとか拡散方程式も扱う。 これにより量子言語の記述力が増大して,量子言語で「シュレーディンガーの猫」の記述も可能になる.


$(F_5):$ 測定者の役割: 量子言語は,[測定者]と[測定されるもの]の二つで構成される二元論的言語である. したがって,現象は一元的であるが,それを記述する言語は二元論的になる.例えて言うならば、一人称小説・随筆  (私が語る小説・随筆)であるが、私が登場人物であってはならない(観客は舞台に上がらない)。または、「絵画・映画の感想を語る」と思えばよい。
$(F_6):$ パラドックス・未解決問題の解決: 多くのパラドックス・未解決問題が解決された。
$(a)$ 記述する言語が無かったことによるパラドックス:
確率, 因果関係、時空とは何か? ゼノンのパラドックス、等重率、古典三段論法


$(b)$ 記述力が増大したことで解決したパラドックス:
シュレーディンガーの猫、
$(c)$ 記述力が明確化されたことで解決したパラドックス(語り得ぬことは、沈黙しなければならない):
ウィグナーの友人、遅延選択実験、(ガンマ線顕微鏡による)ハイゼンベルグの不確定性原理
$(d)$ 見通しが良くなったことで明確化されたこと:
統計学の諸問題(最尤法、ベイズの方法、半距離の導入(信頼区間、仮説検定、ANOVA), 回帰分析、カルマンフィルタ)
$(F_7):$ 非局所性・超光速: 遠隔作用(= 非局所性・超光速)を認める. これが,唯一のパラドックスである.