このページだけで、量子言語(=測定理論)のすべてがわかる
上の言語的コペンハーゲン解釈$(B_1) \sim (B_7)$はすべて「いかがわしい」と思うかもしれない。 著者は、実は、
だと思っている。しかし、量子力学のコペンハーゲン解釈は物理学なのだから、あまりメチャクチャなことは言えない。
物理学内の主張だとしたら$(B_1) \sim (B_7)$のどれも受け入れがたいからで、
多少のボカシ(や変形・迷彩)を施して「量子力学のコペンハーゲン解釈」は通常は提示されているのだが、そのボカシによってさらに分かりにくしている
とも言える。 しかし、量子言語の言語的コペンハーゲン解釈の場合は、
上で述べたように、 これを式(1)のように物理化すると, テクニック$(B_1) \sim (B_7)$を物理現象と見ることになり,
「(物理的に)いかがわしい」ことになるが、
これが「(物理学の)量子力学の解釈問題」がいつもクレージーな原因と考える。
すなわち、量子言語は
§1.道具主義としても量子言語
道具主義とは、 現象の背後にある実在の真の姿を追究することをしないで、科学理論を現象を記述するための言語( とか組織化・予測するための形式的な道具・装置)であると見なす立場である。 量子力学の場合は、R. ファインマン(量子電磁気学の創始者に一人)の有名な言葉:
「そこ、 深く考えたらアカン」
を忠実に実行すれば、「道具主義としての量子力学」が得られる。 著者は、これが「量子力学のコペンハーゲン解釈」の一つの側面であると考え、「道具主義としての量子力学」を
と名付けた。道具主義は、理論の優劣がその有用性によって決まると考えるので、量子力学を有用なように作り変えて、その結果として出来上がった理論が物理学でなくなっても良しとする。 事実、「量子言語」は物理学(形而下学[=実験によって白黒つけることができる学問])でなくて、言語(形而上学[=形而下学の対義語])になる。
§2.世界記述史の中での量子言語
結論を先に述べると、世界記述史の中での"量子言語"の位置は下図のようになる。
上で、実在的科学観は物理学と思えばよい。 言語的科学観は以下で説明する。
言語的解釈は、ソシュールやウィトゲンシュタイン等によってなされた「Eの転回」(言語論的転回: 認識から言語への転回)に大きな影響を受けている。 実在的ではなく、認識的でもなくて、言語的である。
上図(i.e., ⑦--⑨)から、 "量子言語"は次の特徴を持つ:
§3.著者の願望: 「初めに量子言語ありき」で「量子力学=量子力学の物理化」と思いたい
「唯一の良い形而上学は数学である」はケルヴィン卿の言葉であるが、哲学の凋落が露わになった今日では、非常に説得力のある言葉で誰もが納得してしまうかもしれない。 数学以外の形而上学には、「いかがわしさ」や「クレージーさ」が付きまとうと考えるかもしれない。
そうだとしても、量子力学の解釈(コペンハーゲン解釈、多世界解釈、ボームの非局所的隠れた変数解釈等)もことごとくクレージーなのだから、
量子言語と相性がピッタリと合っているかもしれない。
さて、
とか、
に以下のように答えたい。
著者が願望するストーリーは次の[$(A_1)+(A_1)$]である。
$(A_1):$
まず、量子言語という言語がある。 しかし、量子言語は形而上学で、多少のクレージーさを内蔵している。
$(A_2):$
この量子言語を物理学と見なして、量子力学を作り上げたとする。 このとき、「量子言語の言語的クレージーさ(下の§9に書く)」は解消せずに、
量子力学の解釈(たとえば、コペンハーゲン解釈)のクレージーさとして残ってしまった。
である。 すなわち、
\begin{align}
\overset{\mbox{ (言語的クレージーさ)}}{
\underset{\mbox{ (形而上学, 言語)}}{
{\fbox{量子言語}}
}
}
\xrightarrow[\mbox{物理化}]{}
\overset{\mbox{ (コペンハーゲン解釈のクレージーさ)}}{
\underset{\mbox{ (物理学)}}{
{\fbox{量子力学}}
}
}
\tag{1}
\end{align}
であり、単なる安直な物理化であったからであると考える。(Fig. 1.1のDで完成されるであろう量子物理学は,
(1)式のような構図で生まれたものではないと信じる).
§4. 量子言語の速習の為には「量子言語=量子力学の言語化」と思えばよい
もし量子力学の知識を多少持っているならば、「量子言語の速習」には、(1)式の逆を考えるの一番
手っ取り早い。
すなわち、
\begin{align}
\overset{\mbox{ (多少の言語的クレージーさ)}}{
\underset{\mbox{ (形而上学, 言語)}}{
{\fbox{量子言語}}
}
}
\xleftarrow[\mbox{言語化・ことわざ化}]{}
\overset{\mbox{ (コペンハーゲン解釈のクレージーさ)}}{
\underset{\mbox{ (物理学)}}{
{\fbox{量子力学}}
}
}
\tag{2}
\end{align}
である。
(2)式の意味を説明しよう。
次の良く知られた(コペンハーゲン流の)量子力学:
\begin{align}
&
\underset{\mbox{}}{\fbox{量子力学}}
:=
\underbrace{
\underset{\mbox{ }}{
\overset{
[\mbox{ ボルン}]
}{\fbox{量子測定測定}}
}
\quad
+
\quad
\underset{\mbox{ }}{
\overset{
[{\mbox{ ハイゼンベルグ, シュレーディンガー}}]
}{\fbox{量子運動方程式}}
}
}_{\mbox{ (物理法則)}}
\quad
+
\quad
\underbrace{
\underset{\mbox{
}}
{
\overset{
{}}{\fbox{コペンハーゲン解釈}}
}
}_{\mbox{ 物理法則の使い方のマニュアル}}
\tag{3}
\end{align}
を言語化(呪文化)して、次の量子言語をえる。
\begin{align}
&
\underset{\mbox{ (=量子言語)}}{\fbox{測定理論}}
:=
\underbrace{
\underset{\mbox{ ($\S$2.7)}}{
\overset{
[\mbox{言語ルール1}]
}{\fbox{純粋測定}}
}
\quad
+
\quad
\underset{\mbox{ ($\S$10.3)}}{
\overset{
[{\mbox{ 言語ルール2}}]
}{\fbox{因果関係}}
}
}_{\mbox{ 一種の呪文 (アプリオリな総合判断)}}
\quad
+
\quad
\underbrace{
\underset{\mbox{
($\S$3.1)
}}
{
\overset{
{}}{\fbox{言語的コペンハーゲン解釈}}
}
}_{\mbox{ 呪文の使い方のマニュアル}}
\tag{4}
\end{align}
量子言語は言語であって、物理学ではない。したがって、上の言語ルール (i..e., 言語ルール1と2)は物理法則ではない。一種の呪文(お経, 形而上学的命題)であって、
実験検証することはできない。
次に言語ルールと2を書いておこう。
§5. 言語ルール1
次は、ボルンの量子測定理論の言語化(呪文化、ことわざ化、数学的一般化)である。量子力学と作用素代数の専門家ならば、直ちに理解可能かもしれないが、
そうでないならば、多少の準備が必要かもしれない(下の補足を参照)。
言語ルール1(測定) 純粋系${\mathsf M}_{\overline{\mathcal A}} \big({\mathsf O}{},
S_{[\rho] }\big)$
あらゆるシステムはある基本構造
$[ {\mathcal A} \subseteq \overline{\mathcal A}]_{B(H)}$内で定式化できる.
$[ {\mathcal A} \subseteq \overline{\mathcal A}]_{B(H)}$
内で定式化された$W^*$-測定
${\mathsf M}_{\overline{\mathcal A}} \big({\mathsf O}{{=}} (X, {\cal F} , F),
S_{[\rho] } \big)$
$\Big($
または,
$C^*$-測定}
${\mathsf M}_{{\mathcal A}} \big({\mathsf O}{{=}} (X, {\cal F} , F),
S_{[\rho] } \big)$
$\Big)$
を
考えよう.
このとき,
$W^*$-測定
${\mathsf M}_{\overline{\mathcal A}} \bigl({\mathsf O} , S_{[\rho] } \bigl)$
$\Big($
または,
$C^*$-測定
${\mathsf M}_{{\mathcal A}} \big({\mathsf O}{{=}} (X, {\cal F} , F),
S_{[\rho] } \big)$
$\Big)$
により得られる
測定値$ x$
$(\in X )$
が,
$ \Xi $
$(\in {\cal F})$
に属する
確率
は,
\begin{align}
\rho( F(\Xi))
(\equiv _{{{\mathcal A}^*}}(\rho, F(\Xi) )_{\overline{\mathcal A}} )
\end{align}
で与えられる
§6.言語ルール2
次は、量子運動方程式の言語化(呪文化、数学的一般化)である。
言語ルール 2 (因果関係)
$T$を木半順序集合とする。 各 $t (\in T)$に対して, 基本構造 $[{\mathcal A}_t \subseteq \overline{\mathcal A}_t]_{ B(H_t)}$を考える.
このとき,
因果関係
の連鎖は
因果作用素列
$ \{ \Phi_{t_1,t_2}: $
${\overline{\mathcal A}_{t_2}} \to {\overline{\mathcal A}_{t_1}} \}_{(t_1,t_2) \in T^2_{\leqq}}$
により表現される.
§7. 量子言語の主張
ここで,
したがって、「理解」は不要である。
量子言語の主張は、
である。
この呪文の言葉遣いで諸現象を記述せよ!
$\quad$
「二つの言語ルール」を丸暗記したならば, あとは, 実戦である。
最初は,意味不明に思うかもしれないが,
そのうち上達して,
量子言語を使いこなせるようになる. つまり、
または、
§8. 猿も木から落ちる
$\Large{\mbox{猿が}}
\left\{\begin{array}{ll}
\Large{\mbox{弘法大師}}
\\
\small{\mbox{(弘法も筆の誤り)}}
\\
\\
\Large{\mbox{河童}}
\\
\small{\mbox{(河童の川流れ)}}
\\
\\
\cdots
\end{array}\right\}
\mbox{にもなる}
$
量子言語の場合は、 Fig1.1で示したように、
§9. 言語的コペンハーゲン解釈(=呪文の使い方のマニュアル)とは何か?
式(3)の物理学のコペンハーゲン解釈(=物理法則の使い方のマニュアル)の方は、小さい雑多な物理法則のようなもので、
使う側で決めらるようなものではなく「天から与えられた決まり」である。
一方、式(4)の言語的コペンハーゲン解釈(=呪文の使い方のマニュアル)は、呪文の有用性が十分に発揮できるように
使う側が決めればいい。
さて、上で述べたように、
したがって、式(4)の言語的コペンハーゲン解釈(=呪文の使い方のマニュアル)は必要不可欠というわけではないが、
あったほうが便利である。以下にこれについて幾つかの注意点を述べておく。
そのうち上達して,
量子言語を使いこなせるようになる.
デカルト図式3.1を念頭に置いて、言語的解釈というマニュアル(B$_1$)-(B$_7$)の下に、
言語ルール1と2の言葉遣いですべての現象を記述せよ!
等.
いろいろとあって雑多な感じがするかも
しれないが,それは「公理・ルール」というより「言語ルールの使い方の指示(マニュアル)」
であるためで, 細かいことを言えば,切りがない.
$(B_1):$ 「我(=測定者)」と「物(=測定対象)」の2つから成る
二元論で,
当然,
「我(=測定者)」と「物(=測定対象)」
は完全分離で、この二つを混同してはならない.
喩えて言うならば,
「観客は舞台に上がらない」
である。 「我」が「我」を測定するなどという設定を考えてはならない(cf. 8.4節:コギト命題).
$(B_2):$
「物(=測定対象)」の方には,時間・空間を想定するが,
「我(=測定者)」には,時間・空間を想定しない.
したがって,測定理論には,「測定時刻,測定後,測定した瞬間」,「時制」の概念がないので,
測定理論で記述される諸科学にも「時制」の概念はない
$(B_3):$
測定は,
「我(=測定者)」と「物(=測定対象)」の相互作用[@とA]とイメージしてもよいが,
相互作用のことを陽には言わない
$(B_4):$
測定は一回だけ.
したがって、状態は一つだけ、
しかも,
測定後の状態は考えない.つまり、 波束の収縮は無い。
$(B_5):$
測定なくして,確率なし
$(B_6):$
状態は変化しない. したがって、シュレーディンガー描像は考えず、ハイゼンベルグ描像しか考えない。
また,本書の主張(上の§2 のG)は
なので、
と思ってもよいだろう.
(B$_7$)は信じ難い奇跡であるが,
$(B_7):$ ギリシャ以来の哲学者たちの金言の多くは,言語的コペンハーゲン解釈の一部になっている
$(C):$ デカルト=カント哲学と量子言語は共に、目的は世界記述であり、その方法は
二元論的観念論(心身二元論・物心二元論・形而上学)で同じなのだから、
と考えない方がおかしい。すべての哲学者が馬鹿ということもないだろう。
もちろん、デカルト=カント哲学は失敗したわけだが、その敗因は、「言語」でなくて「認識」を追究したことで、 皮肉を込めて言うならば、「言語ルール」を知らずに、その使い方のマニュアルを追究したことだろう。
さて、
そのうち上の$(B_1) \sim (B_7)$等を会得して,量子言語を使いこなせるようになる.
を楽観的と思うかもしれないが、試行錯誤で著者は$(B_1) \sim (B_7)$等を会得した。 もちろん、可能性としては、
は心配になる。今のところ、右のサイドバー[目次]程度のことはカバーしているとしか言えないが、楽観的に「そのときは、$(B_8)$を
付け加えればいい」と思っている。
$(D):$
言語的コペンハーゲン解釈でカバーできない量子現象・パラドックスがあるかもしれない
なのだから、「(物理的に)いかがわしい」ことを気にすることはない。形而上学とは、「気楽なもの」である。
に解答を与える。
- 量子言語は使われなければ意味がない
からで、形而上学も甘いわけではない。 しかし、これは大丈夫だろう。 量子力学と統計学の両方を合わせたぐらいパワフルなのだから。
補足
理工系の大学卒ならば、数学のヒルベルト空間論の初歩(数学科4年程度)を学べば、「言語ルール1と2」を読めるようになるだろう。しかし、本書を読む場合は、簡単な例を多数用意しているので、その例を通して「言語ルール1と2」に慣れていけばよい。たとえば、本書 § 5.5の「モンティ・ホール問題」など今でもすぐ読めて、測定の形而上学的側面を直ちに理解できると思う。
量子力学の多少の知識を持っている読者ならば、次の文献を先に読むことを勧める:
[1]: | S. Ishikawa, “A New Interpretation of quantum mechanics,Journal of Quantum Information Science,” Vol. 1 No. 2, 2011, pp. 35-42. doi: 10.4236/jqis.2011.12005 ( download free) |
[2]: | S. Ishikawa, “Quantum mechanics and the Philosophy of Language: Reconsideration of Traditional Philosophies," Journal of quantum information science, Vol. 2, No. 1, 2012, pp.2-9.doi: 10.4236/jqis.2012.21002 ( download free) |
[3]: | S. Ishikawa, The linguistic nterpretation of quantum mechanics; quantum mechanics,”arXiv:1204.3892v1[physics.hist-ph], (2012) ( download free) |
量子力学の観測・解釈問題は様々な観点から研究されるべきことは当然であるが、最も挑戦する価値のある問題は
$(\sharp):$ | 射影仮説(=波束の収縮)の無い解釈を見つけ出すこと |
であると著者は信じている。 もちろん、標準的コペンハーゲン解釈がお世辞にも美しいとは言えない射影仮説を採用しているのには、それなりの理由があるのだと思う。
しかし、量子力学には、何が起こるのか予想できない面白さがある。量子力学の歴史の中では、誰もが信じていたことが否定されたことなど枚挙にいとまがない。 そう考えて、著者は(射影仮説(=波束の収縮)の無しの)量子言語を提唱した。 本書で示したように、量子言語は強力な記述力を有するので、 破綻する可能性は少ないと信じるが、やはり多くの研究者のチェックが必要だろう。 今後、克服できないを困難を知ったときには、直ちにこの場で報告する。